『僕のだよ!』

『違うよ!机に置いてあったんだよ!』

いつもは穏やかな二人の 激しい声が聞こえてきます

ぎゅっと、蓋を取り返そうと、あの子の手から引っ張ると

引っ張られれば 引っ張られる程 握る拳も硬くなります。

『僕のだよ〜!』

『違うよ!使ってなかったじゃん!』

『センセ〜。。。』困ったように一生懸命説明しています

『自分のが取られたら嫌な気持ちになるのにね。。。なんで取っちゃうんだろうね。僕のだったのに。。。』

諦めたように先生の膝に座りながら、お友達の気持ちを理解しようとするけれど、

涙だけが溢れます。

(だって、使ってなかったじゃん。その場にいなかったでしょ。要らなかったでしょ、だから僕が使っていいんだよ。)

蓋を握っている子は ずっと離れた所で相手の言い分を背中を向けて聞いています

背中を向けているけれど、心の中は、もやもやの渦なんだろうなぁ。。

離さなかった大事な蓋、自分の手に握っている蓋なのに、泣いてるあの子が気になって全然遊べないんです。

『返して!』

『僕のだよ!』

スタッフも

『君もなくなったら嫌だったよね。』『君も使いたいんだよね。二人の気持ち、わかるな。。』

その子達の気持ちを確認し、裁く事なく彼らの気持ちを言葉にします。

何度も何度も言い合い、長い時間が経ちました。。。

『もう遊ぶ時間がなくなっちゃうよ。。。』

二人に焦りが出てきます。

『僕、お外に行きたい!』

『じゃあ、蓋、置いてってよ!』

蓋をしっかりと握って あの子は外に出て行きます。

(あぁ、どうしようかな。。。何か言った方がいいのかな。。。

倉庫に蓋が一個あるかもしれない。それをあげようかな? 順番よく使ってって言おうかな。。。)

スタッフもお互いに顔を見合わせながら、迷うんです。悩むんです。

私達も二人を見て、歯痒くなるんです。

でも、待ってみる事にしたんです。

そして、少し子供と距離を置いてみました。

彼らを待ってみよう。。。

外に出て行き、泥山に登ったあの子を ずっと玄関の方から見ています。

ずっと ずっと みてました。

そして、気がつくと その子もシャベルを握り、泥山に上がってきました。

そして、あの子の隣にしゃがみ込み 小さな声で言いました。

『ごめんね。』

その子はパッと顔をあげ、『後でごめんね。』(さっきって言いたかったんだろうな。。。)

『一緒に遊んでもいい?』

『うん』

二人は穴を一緒に掘り始めます。

さっきまで涙していた二人の顔は温かく、柔らかい。

『バイバイ!またね!』

(僕たち、大丈夫だよね。)

そんな気持ちを確かめ合うように

二人はさよならの言葉を交わしています。

放課後、子供達の取り合っていた蓋が

棚の上にポツンと置いてありました。

すごいな。。。子供達。。。

1日を振り返り、心熱くなります。

蓋じゃなくって、心なんです。

大人が成敗しちゃえば事は早く進んだんだろうな

でも、子供の心は納得できる?

今日の出来事は大人も子供も色んな学びがありました

状況を理解する事、相手の思いや言い分を聞く事

自分の気持ちを整理したり、自分の中の感情の変化を感じたり、

我慢する事、言わなきゃいけない事、自分の思いを伝えたり、

いろんな事を学び、感じているんです

大人が入っていい時、いけない時がある。

子供には子供の言い分や、タイミングがある

今日の子供達、葛藤もあったけど、彼らの内から出てきた『ごめんね』の本物の気持ちが嬉しく、

成長した彼らを誇りに思えた時でした。

大人が『待つ』。そこに子供達の学びがあるのだと感じた今日でした。